「時空」を共有する音楽
いわゆる「せーの」で、一発録音にかけるレコーディングがはじまりました。
ミュージシャンたちがスタジオでライブをするように演奏し、歌手はその場で歌います。ようするに、お客さん不在のスタジオライブレコーディングです。
90年代中盤くらいまでは、当たり前のように行われていた普通のレコーディングですが、近年では、サンプリングをつかって、アレンジャーやミュージシャンたちが自宅スタジオでサウンドをつくりあげて、ファイルにして、それを交換しながら、一人一人が自分の演奏を録音してく、、、そんなレコーディングスタイルが主流となりました。
言葉で書いても、なんだか、ピンときませんね。
とにかくこのような「せーの」のレコーディングは、とても贅沢な部類にはいるレコーディングになりました。
ライブを考えればわかりやすいのですが、歌手、ミュージシャン、そしてお客さまも全員、その場で「時間と空間」を共有します。それが「音楽」では一番大切なことなのだろうと思います。
たとえば、ボサノヴァでウィスパーで歌うとします。歌のアプローチがウィスパーであれば、ドラムが思いっきりスネアを叩くことはしないでしょう。もっとやさしく、リムショットでのアプローチとか、ブラシで細かいビートを感じさせながらソフトに時間を包むようにアプローチしたりとか。
その場に一緒にいて、相手に反応することで、自分のアプローチが決まります。
自分だけで勝手な行動にはでません。インタープレイが大切なのです。そのためには、時間と空間を共有することが必要になります。
最近のレコーディングは、時間も別、空間も別、そんな環境でレコーディングすることがとても多いのです。だからこそ、時空を意識するということが、より大切になったります。
ピアニストも、ドラムも、ベースも、歌手を中心に、作品をどう作り上げていくか、イメージを共有し、相手のプレイに相互に反応しあいながら、時間を泳いでいきます。
音楽は、なかなか一人では出来上がらない芸術です。歌があっても、演奏をしてもらう人が必要だったり、弾き語りでも、録音してくれる人が必要だったり、常に、複数の人がそこにいるケースが多いのです。
その上、作品を聴くことも、演奏することも、歌うことも、すべて時間軸上でおこなわれます。絵画は制作には時間がかかりますが、見るのは一瞬です。しかし、音楽は、常に時間とともにあります。そしてサウンドの中に、空間も表現されています。
録音はとても面白い現場です。人と人の化学反応のような現象があり、その反応には、さまざまな偶然が関係することさえあります。とてもスリリングな日々がしばらく続きます。