「月に濡れたふたり」Crazy Director Recording Diary 10
Miho Morikawa 「another Face ~ Goro Matsui + Koji Tamaki ~」
クレイジーディレクターのレコーディング日記
森川さんのレコーディング2日目 「月に濡れたふたり」
2019-8-14
14:50~「月に濡れたふたり」
ウードは周りとのコミュニケーションがとれやすいようにと、ピアノブースと隣接しているブースで演奏してもらうことにしました。そして、そのすぐ外にある広いブースには、パーカッションがいます。
西嶋「じゃ、一度、練習がてら、やってみてください。どうぞー」
過去に、ライブでもやっているし、常味はめちゃくちゃ演奏は優れているし、ぼくは、順調にすぐうまくいくと信じきっていました。
演奏がスタートしてすぐに、、、、
常味「あれ? どうしよう? うーん。わかんないや。困ったな、どうしよう?」
西嶋「どうしたの?」
常味「いや、なんて説明したらいいんだろう。どうも、どう弾いたらいいのかわからないんだよね」
西嶋「あれ?普通に、やってもらえればいいだけなんだけど」
常味「うーん。困ったな。。。。」
森川さんも、時々これに近い現象が起こることがあります。
音楽で一番大切なこと、それは、時間と空間を共有しながら、演奏者や歌に反応することです。その反応しあう世界が音にあらわれて、音楽となります。
インタープレイが命。常味さんは、言葉は苦手だけど、そのプレイはインタープレイだけで成立してきた音楽そのもの、そんな存在です。
ぼくにはこの人のすごさが、とてもよくわかります。
常味さんは、ほかの音に過敏に反応してしまい、その中での自分の役割はなんなんだろう?・・という、全体の方向、ウードの役割、存在の意義、みたいなことがどうもしっくりきていません。
いつもなら瞬時にベクトルがビタッとあって演奏するのですが、今日のこのスタジオの環境の中で、どうもうまくいかない。見えてこない。そんな感じでした。
スタジオというのは、音を録音するとめに、反射をすくなくしている場をつくっていたりします。そうすると、普段感じている、音像みたいなものと、感覚的に違うという現象がおこります。
竹本「おれさー、一度ぬけていいっすかー。そのほうがやりやすいんじゃないかな?」
一匹さんは、リズムで縛られる感覚が常味さんの中に生まれたのではないか?と察知して、自分は一旦はずれて、音の場の自由なサウンドスペースの中で、プレイをしてみればいいんじゃない?・・・という提案を、このような形でぼくらに合図をくれました。
西嶋「OK、じゃ、そうしましょう。常味、もう一度、自由にやっちゃってよ」
常味「わかりました。やってみます」
常味さんは、本当に動物的な感覚でアプローチしようとしますが、つい森川さんの歌のじゃまにならないように、とか、でしゃばらないようにと躊躇していました。
今回の常味さん自身の「役割」がサポートという感覚でとらえてしまったので、色々と考え過ぎてしまっていました。これは、ぼくの伝え方がわるかったと思います。
ぼくは、デュエットのようにやってもらいたかったのです。そう、この言葉をあのスタジオの現場で伝えるべきでした。
森川さんや、まわりの演奏に合わせるのではなく、常味さんのウードは歌と同じ位置にあって、森川さんの歌とコラボしている世界を作りたかったのに、遠慮しちゃったのです。
こういう時に「コトバ」というのは、とても大切です。
どんな「コトバ」を選んで、伝えるのか?それは、ディレクターの役割としては、とても大きな仕事です。
西嶋「えっと、ちょっと遠慮しすぎていていない? なんかさ、演奏をあわせようとしているよね? そうではなくて、もっとウードを中心に物事考えて、全体をひっぱっていってほしいのね、そんな方向で、やってみてくれない?」
常味「うーん、、、どうかな・・・そんなことやっていいのかな? うーん、とにかくやってみます」
常味さんなりに、なにか割り切って、まずは自分自身を縛っていた彼の中にある太いロープをブチって切り離してプレイしてくれました。
少し荒っぽいところはあったけど、それでいいのです。
結局、このテイクがうまくいって、それをOKとさせてもらいました。
音楽というのは、1テイクあればそれでいいのです。もうこれ以上、煮詰まるのにやっても仕方ありません。
西嶋「OK、もらいました。大丈夫です」
常味「本当?大丈夫ですか?」
西嶋「はい、大丈夫です、聴いてみませんか?いいの録れてますから」
この人の演奏、本当にすばらしいです。楽しみにおまちください。
このあと、一匹さんはダビングという形で、この曲を仕上げていってくれました。楽器がひとつ、またひとつと、入っていくたびに、命が吹き込まれていく、そんなスーパーマンプレイをして、この曲を仕上げてくれました。
今回、基本をシンプルに、生楽器を中心に少編成でレコーディングするという方針をたてました。
それは、楽器ひとつひとつの役割が明確で、演奏も歌と同等に存在感のある音を録音するという方針です。
このアルバムの中で、ウードは1曲ですが、その存在感は強烈です。
目をつぶってゆったりとした世界を聴いていると、いきなり頰をパシンとひっぱたかれるような、そんな強いアクセントをつけてくれました。
2日目の17時まで来ました。この日のレコーディングは、まだまだつづきます。