思考の散歩道

散歩好き音楽ディレクターの日記

原音とは何か? 目的は何か? 〜ディレクター編〜

むかしむかし、5才くらいの頃はレコードなどは浪曲くらいしかなかったけど、蓄音機はあって、ソノシートが何枚かあった。「0戦はやと」「ビッグX」「鉄人28号」とかがあったように思う。たぶん、すべてモノラルだった。そもそも、ミシンの箱のような蓄音機のスピーカーは1つだと記憶しているからモノラルである。
今思えば、5才の時期に、すでにある意味の定位を感じとっていたのだろうと思う。今のステレオによる定位の存在はないわけだけど、録音段階によるマイクの位置(音源からの距離)によって、空間をとおしてつたわってくる音の奥行きについては録音段階で決定しているから、それぞれの音が固有にもっている奥行きの感覚は捉えていたのだろう。

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ある時期、4-5年前だと思いますが、専門学校の講師をつとめていたときに、学生に「原音」とは何か?と訪ねてみたことがある。
 
「録音した音のこと」
「スタジオの中で録音した音のこと」
 
との回答だった。
そこで、その録音には特別な方法があるの?と尋ねると、誰からも回答はない。そこで、ぼくは机を叩いてみた・・・トントン・・・トントントン・・ほら、じゃぁ、この音をどうやって録音したら「原音」になるの?・・・トントン・・・トントントン
 
「マイクで録音します」
 
そうだよね。録音するんだから、マイクは必要です。では、そのマイクはどこらへんに置きましょうか?
 
「うーん。そばにですかね?」
 
そーだよね。この音、小さいものね。じゃぁ、どのくらい近づける?1cm 10cm 20cm 50cm 音源からどのくらいの距離にしようか?どこの距離から狙えば「原音」が録れるのかな?
 
「・・・・」
 
回答からいえば、どこでもいいんですね。
考え方としては、録音する側が必要である質感を得られると感じた距離で録音します。

マイクを遠くにおいて録音した場合、すでにそこには距離=奥行きが存在している音として録音されます。
もちろん、マイクだけで録音するわけではないけど、、、小さい音は音量を増幅しないといけないので、ヘッドアンプでレベルを上げて、そこから電気信号が録音装置までの距離をシールドを通ってきてアナログ磁気テープだったり、現在ならアナログ信号はデジタル信号に変換されてハードディスクに記録されるわけです。結論としては、すべて「原音」であるわけです。

たぶん、学生たちが言いたかったことは、この「トントン」という音を録音する場合は、まわりの人のおしゃべりは録音されてはいけない。「トントン」・・・この音だけが録音されるべきである・・という意味だったのだろうと思います。
 
ぼくらの目の前にはいつも複数の選択肢があります。それを目的に照らし合わせて、ベストを選びます。自分の中の目的を見つめ直して、目的に到達するにはどうすればいいのか?レコーディング現場はその連続です。ディレクターはそんな音楽建設工事の現場監督ですから、現実的なさまざまな制限の中で何を選ぶか?を決定していくわけですね。

 

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